大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(う)2557号 判決

被告人 渡辺重雄

〔抄 録〕

原審検察官佐藤善作の控訴理由は、末尾添付の同人作成名義の控訴趣意書と題する書面記載のとおりである。

よつて、所論にかんがみ、記録を精査し、かつ当審において受命判事によつてなされた本件犯行現場の検証及び証人の尋問並びに当公判における被告人に対する質問の結果をも加えてしさいに検討してみると、原判決は、被告人の藤田寅一に対する暴行の事実を認定しながら、右は同人の被告人に対する急迫不正の侵害に対して自己の権利を防衛するため已むことを得ざるに出でた正当防衛行為であると認めて、被告人に対して無罪の言い渡しをしたのであるが、後に挙示する証拠によつて明らかなごとく、被告人と藤田寅一とが、交通事故の損害賠償請求のことから口論の上喧嘩となり、被告人が近くにあつた細い棒を持つて藤田に殴りかかろうとしたので、同人は殴られてはと思つて、被告人に飛びつき、拳固で被告人の顔面を二、三回殴り、被告人はこれに応じて藤田に掛つて組み打ちとなり、藤田は被告人のため押し倒されて組み伏せられ、被告人の上半身で押えつけられて右手を頸部に廻して首を絞められ一時呼吸が止まりそうになつたものであつて、その押さえ込まれた時間は相当長かつたことが認められ、被告人の本件所為はまつたく口論の末互に暴行し合ういわゆる喧嘩の際における相手方の攻撃に対する反撃に外ならないのであつて、闘争の全般から見て正当防衛の観念を容れる余地のない場合というべきである。しからば原判決にはこの点において事実誤認の廉があつて、右誤は判決に影響を及ぼすものであるから、検察官の論旨は理由があつて、原判決は破棄を免れない。

(中野 尾後貫 堀真)

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